突然ですが自分ってなんでしょう?メチャ言い切ってしまうと「現在を含めた過去の記憶」なんです。ほら、いま飲んだコーヒーが苦いってのも、そう思ってる自分ってもんが存在するのも既にして記憶なんで…。(すみません。ややこしい導入部で。)でもでも果たしてその記憶は真実なのでしょうか。(更にややこしい。)もしかしたら、それはあなたが勝手に(でもほんの少し)ねつ造した「バーチャル記憶世界」なのでは?

 ということで、船橋最強の読書コラム第八弾は呉明益「歩道橋の魔術師」です。

 台湾の作家・呉明益が2011年に書いた小説の舞台は台北の「商場(しょうば)」と呼ばれるショッピングモールです。2階部分を歩道橋で繋いだ8つのビルでできていて、故郷から抜けだした台湾原住民と中国本土から流れてきた外省人が靴屋、麵屋(?)、床屋、レコード屋等々、とにかくあらゆるものを小さな小さな店舗で売ることで日々を食いつないでいきます。歩道橋には手品の道具を売る魔術師がいました。

親の仕事場もトイレも同じ商場の子供たちは皆、共通の思い出の中で成長し、急速な経済発展の中で別れ別れになっていきます。それぞれの人生を送る中でガムの貼りついた薄汚れた階段、憧れた異性の面影、破天荒な年上の男の子とともに不思議な魔術師のことを思い出します。あなたにもそんな「不思議な記憶」がありませんか?

 

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