船橋最強の読書コラム第三弾ではアーシュラ・K・グイン「ゲド戦記」を紹介しよう。児童書コーナーに置いてあるのが不思議で仕方ないこの余りにもハイレベルなファンタジーの本当の主人公は「腕環のテナー」と呼ばれる一人の女性なんだ。そのことを大人たち、とくに男性諸君はご存知だろうか。ジブリのアニメで見たって?うーん、ごめん。あれは全然違うんだ。あらためて解説する。
まずは「こわれた腕環」(第2巻)を読みたまえ。(第1巻とか3巻とか面倒くさいから読まんでいい。)まずは世界の命運を担う「腕環」の守護者として若きゲドを思うままに翻弄する残酷で怜悧な巫女テナーの姿におびえれるがいい。「帰還」(第4巻)では農婦となった彼女が力を失った大魔法使いゲドと再会する。親の虐待を受けた少女を救う事件以外は、ヤギを飼い、その毛を紡ぎ、毎日の食事を準備する農場での生活目線から物語は離陸することがない。結局は英雄と姫の恋は成就するのだが、それは質素で無力、不安な田舎暮らしの中でなのだ。終わらない日常の中でのテナーはやさしい。そして「アースシーの風」(第5巻)。そこで彼女は崩壊の危機にある「世界」を救うために立ち上がる。彼女を助けるのはゲドではなく無力だったはずの娘テハヌー(テルー)。彼女らの無敵のチカラを見よ!